パリ王立科学アカデミーとSavantコンドルセ
--科学・技術の政治的有用性へのまなざしと道徳・政治諸科学
への解析応用プロジェクトをめぐる社会史的考察--
             東京大学大学院 隠岐さや香
L'Académie des sciences de Paris et Condorcet, savant: une considération
au point de vue de l'histoire sociale concernant son idée sur l'utilité
politique des sciences et téchniques et son projet d'appliquer l'analyse aux
sciences morales et politiques Université de Tokyo  OKI Sayaka

<問題意識>
コンドルセ(1743-94)
科学アカデミーという制度・環境が彼の思想とどのような関係にあったのか
1770-80年代:コンドルセ研究も科学アカデミー自体の研究も手薄
終身書記:アカデミーのスポークスマン/行政長官

<18世紀の科学アカデミー>
18世紀前半:科学アカデミーの名声確立/主に数学や天文学など純粋科学的分野の理論的  探求
18世紀後半:実学的な方向 産業技術 政治経済 社会統計
  アカデミシアンの職業別分布:
  金融・軍事・法曹関係者が増加

<コンドルセにみられる思想的変化--理論と応用をめぐって>
1770年代のコンドルセ:専ら純粋数学の論文
   純粋数学の理論探究にプライオリティ/関心も哲学的・形而上学的
   実用や応用のために数学を道具の用に用いる態度に嫌悪感を表明
1780年代:
   理論と実践的応用が互いに補完しあい弁証法的な関係を持つ
   応用は理論にインスピレーションをもたらす

「社会数学」= 社会科学の確率論による基礎付け・応用プロジェクト
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 a.人間の精神や社会現象(政治、経済、法、精神もしくは道徳)
 b.社会科学
 c.社会数学
       それぞれ対応
 a.自然現象
 b.自然諸科学(sciences physiques)
 c.天文学(Astronomie)
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天文学(天文物理学くらいの感じか)が数理科学により厳密な科学となっているように、社会数学も解析を使用した確率論という数理科学により厳密な学となる




<技術・実践と理論について>
エロージュ
  Duhamel du Monceau(1700-82) 植物学者 化学者
      Descriptions des arts et des métiers(1761-88)への関係で有名
  Vaucanson(1709-82) 機械技師 オートマタ

技術・実践自体に自律性を認めてしまわず、理論により出来る限り解明・介入を行おうとする

アカデミシアンの間に根強い新しい分野への応用・技術的実践に対する軽蔑
アカデミー外における理論への敵意
双方に配慮しつつ実学的な応用科学・技術探究にアカデミーが積極的に関わっていくことを鼓舞しようとする姿勢

技術・実践に一定の役割--インスピレーション 理論を訂正 
しかし「実学的な応用研究で得られる目先の利益にとらわれることの不毛さ」や「機械技師、職人が理論に無知であることへの懸念」

コンドルセの科学・技術思想のスキーム


<政治的意図>
アカデミー:
科学者共同体が行政府や国家と相対的な独立性を保ちつつも、学問の世界に閉じこもらずに社会・政治への関与を積極的に続けるという可能性を与える

政権にとって有用で不可欠な諮問機関にする/科学と政治との接合、科学者の地位向上

実学志向を「社会に有用なもの」として奨励しつつ、一方でアカデミーを他と差異化するためことさらに「理論」探究の意義とその蓄積の場としてのアカデミーを強調
終身書記:学問のオーガナイザー

<実際にアカデミーにみられた傾向の変化の一例>
項目:「オイコノミー」
「雑多な」領域、すなわち産業技術、統計調査、政治経済、応用化学、公衆衛生に関わるような社会事業などに関連した論文、研究活動報告が激増

<アカデミーの示す方向性およびコンドルセの科学・技術思想の与えた印象>
産業技術・政治経済・社会統計など実学志向:
 ぼやけるアカデミーのアイデンティティ
 それによる政治と科学の癒着
理論的探究の重要性とその質の保持のための少数エリートによるアカデミー:
 科学的知の独占・エリート主義への反発